大判例

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名古屋高等裁判所 昭和29年(う)830号・昭29年(う)832号・昭29年(う)831号 判決

先づ職権を以て調査するに、原判決は証拠に基き前後十余回に亘る金品騙取の事実と一通の約束手形の偽造並に同偽造約束手形行使の事実を認定した上、適用法令として、刑法第二四六条、第一六二条、第一六三条第一項、第四五条、第五四条、第一〇条、第一九条、刑事訴訟法第一八一条を列挙の上その主文に於て被告人を懲役一年十月に処し、未決勾留日数中六十日を右本刑に算入すると共に、本件証第一号の偽造約束手形を没収し、被告人に訴訟費用の負担を命じて居る。

ところで刑事訴訟法第三百三十五条第一項に、有罪判決には、罪となるべき事実、証拠の標目の外に特に法令の適用を示さなければならぬと定めているのは、罪刑法定主義の立場から認定事実に対する適用法条を明かにし、よつて以て人権の保障を全うせんとするにあるものと認められるので、有罪判決に於ける法条の記載は判示事実と相俟つて、その主文の因つて来る所以を一応合理的に説明し得るに足るものであることを要するものと解すべきところ、原判決に列記の前記法条をその判文と対比して考察するに、それに刑法第二四六条、第一六二条とあるは、いずれもその第一項を、同法第四五条とあるは原判示中に、同判示犯行後に確定判決のあつた旨の記載の無い点を併せ考へ、同条前段を、同法第五四条とあるは前記約束手形の偽造と同偽造手形の行使の関係につき、同法条第一項後段を各適用した趣旨と解されないことはないので、この点杜撰の謗は免れないものゝ未だ判決に影響すべき瑕疵とはならない。然し(一)右刑法第四十五条は本件の場合被告人の前記各犯行が併合罪に該るものであるということを示すだけで、同法第四十七条を掲記せぬ原判決に於て、その主文で言渡の一箇の刑の因つて来るところは明かでないといわねばならず(二)又併合罪に該るものの一部に刑法第五十四条を適用すべきものがある場合は先づこれを適用した後、併合罪の規定を適用すべきであるから、原判決にこれと順序を逆に刑法第四十五条の次に第五十四条を記載しているのも、単なる適用法令記載上の瑕疵とばかりは考へられず(三)更に主文に未決勾留日数の通算を言渡しながら、前記適用法令中に右言渡の際適用すべき刑法第二十一条の記載を欠き、結局以上(一)(二)(三)に説明の点に於て原判決には刑事訴訟法第三百八十条に所謂判決に影響を及ぼすべき法令適用上の瑕疵があるといわねばならぬ。

(裁判長裁判官 高橋嘉平 裁判官 山口正章 裁判官 海部安昌)

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